アーユルヴェーダの起源と歴史
アーユルヴェーダの起源
Ayurveda(アーユルヴェーダ)とは、サンスクリット語でAyus(生命)とVeda(科学、知識)という言葉が合わさった複合語です。
その起源は5000年前に遡り、インドで誕生したと言われています。
生命の科学というだけあり、医学や健康についての記述はもちろんのこと、哲学、工学、占星術、建築など人間に必要な多様な分野の実践かつ科学的情報が盛り込まれています。アーユルヴェーダはインド哲学であるヴェーダの一部です。
目次
アーユルヴェーダの哲学は「ヴェーダ」からきています。ヴェーダは音であり、元々は口伝によって伝承されていました。
インドの哲学「ヴェーダ」とは
ヴェーダには4種類あります。
- リグ・ヴェーダ
- ヤジュール・ヴェーダ
- サーマ・ヴェーダ
- アタルヴァ・ヴェーダ
どのヴェーダにもハーブやアーユルヴェーダの基本原則について述べた箇所はありますが、その中でもアタルヴァ・ヴェーダの補足がアーユルヴェーダだとされています。アーユルヴェーダとヴェーダの深い関係から、アーユルヴェーダは第5のヴェーダだと考える人もいます。
アーユルヴェーダの古代文献には、その起源は紀元前6千年頃からそれ以前に遡ると記述されています。それ以前は口伝だったので文字として残されるようになった紀元前6千年頃がアーユルヴェーダの起源と考えられています。次の項目で詳しく記載していきます。
アーユルヴェーダの歴史と重要文献
|天界から伝わった知識
アーユルヴェーダ教本によると、アーユルヴェーダの知識はこの世に伝わる前にはもっと高次の天体で実践されていました。
もっと高次の生命体が存在する天体は数多くあるとヴェーダには記述されています。アーユルヴェーダの永遠の知識は、宇宙の創造神であるブラーマ(ブラフマン)からダクシャ・プラジャパティに伝えられたとされています。
ダクシャ・プラジャパティはそれをアシュウィン双神に伝えました。アシュウィン双神は外科治療に精通した半神半人の医者で、双神が生み出したといわれる外科手術についての記述も残されています。双神はその知識をインドラ神に伝えました。
インドラ神は雨と嵐の神で、神々の王でもありました。インドラ神は天界に住む半神半人なのでこの時点ではまだアーユルヴェーダはこの世に伝わっていませんでした。
|神々からリシ(聖者)によって受け継がれる
リシは聖者や賢者を指します。リシたちは霊的世界と物質世界の両方と深く結びついていたため、宇宙の原理とその中での人間の位置を認識することがきました。そして彼らは、流動的で成長性のある知識の口伝法を開発しました。
インドラ神はリシであるバラドヴァージャに伝え、バラドヴァージャはプナルバス・アートレイヤーに伝えました。また、カーシャパやダンヴァンにその知識を伝えました。
アートレイヤーには6人の弟子がいて、それぞれがサンヒター(本集)を書き記しています。いずれのサンヒターもリシ(聖者)たちに認められたのち、人間の世界に広まっていきました。
|初めて文字に。3つの重要文献
何世紀もの間、師から弟子へと受け継がれた知識が、文字言語の発展とともに記録されていきます。
ヴェーダ哲学やアーユルヴェーダを語る上で重要な文献を記載します。まとめてBrihat Trayiといい、三大古典書とされています。アーユルヴェーダは古典の段階で完成された医学体系であり、現在でもテキストとして参考にされています。
チャラカ・サンヒター(Charaka Samhita)
原本はアートレイヤーの6人の弟子のうちの1人であるアグニヴェーシャ(Agnivesa)による『アグニヴェーシャ・タントラ』で、後にチャラカによって改訂され、『チャラカ・サンヒター』となりました。チャラカが全ての著者ではなく、本書のうちの約1/3はドリダバラ(Drdhabala)が補充したと言われています。8巻120章から成り、おおよそ紀元前1000年頃に著されたとされています。主に内科的治療について述べられています。
スシュルタ・サンヒター(Susrutha Samhita)
紀元前600年頃に、外科の知識を持つダンワンタリとニミからアーユルヴェーダを学んだスチュルタによって書かれました。6部と186章からできていて、主に外科について述べられています。ニミという人物は外科(シャーラーキヤ・タントラ)の専門医で、目、耳、鼻、喉、頭部の手術を手がけた医師です。スシュルタは歴史上はじめてプラスチックを使った整形外科を発明したと言われています。また、糖尿病には遺伝性と食事の摂取に問題がある2種類があることを明示したはじめての医者とも言われています。
アシュタンガ・フリダヤ(Ashtanga Hridaya)
紀元前500年頃にヴァグヴァタ(Vagbhata)によって書かれました。主に上記の2冊チャラカサンヒターとスシュルタサンヒターの本を集約したものになります。
さらに後の時代に書かれた、二番目に重要な文献が3つあります。Laghu Treyi(小さなテキスト、捕捉的なテキスト)と呼ばれる、三小古典です。
マーダヴァニダーナム:診断について詳しく書かれています。
シャーランガダーラサンヒター:解剖や内科について詳しく書かれています。
バーバプラカーシャ:薬学について詳しく書かれています。
アーユルヴェーダの内容
|アーユルヴェーダの分野|8部門
アーユルヴェーダには主に8部門から成っています。
- 内科学(カーヤ・チキッツアー)
- 耳鼻咽喉等の治療学(シャーラーキヤ・タントラ)
- 外科学(シャーリヤ・タントラ)
- 毒物学(アガタ・タントラ)
- 心理学・精神病学(ブータ・ヴィドヤー)
- 小児科学(カウマーラ・ブリトヤ・タントラ)
- 老化防止法(ラサーヤナ)
- 強壮法(ヴァージーカラナ)
小児科は、子どもだけでなく元気な赤ちゃんを産むための女性の体も対象としているため、産科、婦人科も含まれます。耳鼻咽喉科は首から上の全てを対象としています。強壮法は、不妊治療や精力を戻すための治療などです。特に男性が対象となります。
|アーユルヴェーダの最終目的
アーユルヴェーダが目指しているゴールはどこなのでしょうか。
1つは健康の保持と疾者の苦痛の救済です。
もう1つ、アーユルヴェーダの説く人生の4つの目的は
ダルマ(義務・調和)、アルタ(財産・富)、カーマ(願望・欲望)、モークシャ(解脱・悟り)です。
社会と調和して自分の役割を全うしながら財を築き、その財産の助けを借りて正当な欲望を成就させ、最後に、人生には義務、財産、欲望以上のものがあると気づいて手放すことです。最初から欲を捨てなければならないと思っている人も多いですが、ヴェーダ哲学は、物質的な楽しみや充足感を得ることも人生には大事だと説いています。ただそれは永遠のものではないことを理解することもまた同時に大事なことだといいます。
アーユルヴェーダは健康に特化した分野ですが、アーユルヴェーダにおける健康とは身体的健康だけを指すのではなく、霊的および精神的健康も含んでいます。心や魂という言葉は古めかしく死語のように聞こえるかもしれませんが、健康の半分を担っています。私たちは肉体的な健康、物質的な満足だけでは幸せにはなれません。一時的には幸福感を感じてもすぐにまた満たされなくなります。私たちが幸せになるにはどうした良いのかを教えてくれるのがヴェーダの教えであり、アーユルヴェーダです。
|そんな大昔の知識を信用していいの?
アーユルヴェーダの歴史を遡ると、神に行き着きます。冒頭で5000年の歴史があると述べましたが、アーユルヴェーダの教本には、この世ができた時から常に存在していたと記述されています。神に行き着くのなら、宇宙が創られた時から存在していても不思議ではありません。宇宙の創造主から神々へ、神々から賢者たちへ、それが人間たちへ受け継がれてきました。
そう聞くと、遠い国の、気が遠くなるほどの大昔の知識を信じて良いのか?時代遅れなのではないか?と疑いたくなるかもしれません。
しかし知識の源ヴェーダは、特定の宗教や国、時代を超越した、真理を追求した科学です。
今日アーユルヴェーダが科学的でないという思い込みがあるのは教育のせいだとアーユルヴェーダ医は言います。
例えば、アーユルヴェーダと深いつながりのあるヨガは広く知られ、多くの国で正式に認められています。
ヨガの書籍が溢れ、さまざまな流派のヨガスタジオが開校され、一つの科学として受け入れられています。健康維持や美容だけでなく、生活習慣病から始まり、うつ病や認知症などの疾患にも効果的であることが実証されています。
しかしこうしたヨガのアーサナや呼吸法、瞑想はヴェーダの本が数千年前から説いてきたことです。それを現代人が再認識、リサーチ(調査)しているだけです。
リサーチとは発明ではなく、再び探すこと、つまり、以前から存在していたものを再発見することです。
かつて地動説を唱える者が異端者と言われ、後からそれが証明されて今や地動説が当たり前に受け入れられているように、科学的な証明は後からついてくるとドクターは言います。事実、WHO(世界保健機関)にも正式に認められている医学であり、個を重視するアーユルヴェーダはこれからますます認知されていくことでしょう。
|アーユルヴェーダの概念を理解するには
アーユルヴェーダを理解するにはヴェーダ哲学を学ぶことから始まります。ヨーガもまたヴェーダ哲学から生まれたものでつながっています。
この世界はどのようにして成っているのか、アーユルヴェーダでよく出てくる五大元素とは何なのか、それが私たちの世界にどのような影響を与えているのか、ヴェーダ哲学を学ぶことでわかっていきます。